超厚膜ハイブリッド・チップの製作

大電流が流せるパワーFETは、 バイポーラ・トランジスタみたいにベース電流を流す必要が無いので、 マイコンから直接駆動する事もできます。 ところが、最近のTO-220型のMOSFETは、 必要とされるVGS(ゲート・ソース間電圧)が意外に高いので、 乾電池駆動のアプリケーションには向いていません。 VGSが1VのMOSFETも存在しますが、表面実装タイプばかりです。 仕方ない、TO-220風に改造してしまおう。

超厚膜ハイブリッド・チップ

アジェンダ

超厚膜ハイブリッド・チップのコンセプト

ハイブリッドICって、ご存知でしょうか。 通常、ICというと、 シリコン・チップをプラスチックのパッケージに封入したものですが、 ハイブリッドICは、 セラミックの基盤の上に様々な部品を配置し、ICの形状に作り上げたものです。 市販の部品を並べて作成することも出来るので、 シリコン・チップを開発するのに比べて時間もコストも少なくなります。 反面、大量生産には向いていない手法です。

ここで作成しようとしているハイブリッド・チップは、 市販のガラス・エポキシ銅箔基板の上に部品を並べて、 ICのような足を取り付けたものです。

超厚膜ハイブリッド・チップの設計図

今回の目標は、 SOT-23型の表面実装型MOSFETを搭載したTO-220型互換のチップです。 搭載する部品はひとつだけなので、ハイブリッドICと呼ぶのは ふさわしくありませんね。

ハイブリッドICは、 基盤の材質や作り方によって、厚膜、薄膜などと呼ばれていますが、 ここで作成するチップは、かなりの厚みを持つことが予想されますので、 「超厚膜ハイブリッド・チップ」と名づけました。

基盤を作成する

まず、基盤を作成します。 基盤の材料は、ガラス・エポキシ基板の端切れです。

超厚膜基盤の材料

大きさは、7mm×8mm程度になっています。 作業をしやすくするため、 これらの基盤を別のガラス・エポキシ基板の上に両面テープで固定しました。

基盤を両面テープで固定する

この基盤に設計図に従って、油性のペンでパターンを描きます。 このパターンは、基盤作成の作業をするときの目安になるものです。

基盤にパターンを描く

次は、パターンに沿って、銅箔を削っていきます。 銅箔をを削る幅は、太くても0.8mm程度にする必要があることが 設計図からわかります。 そのために、私が使用したのが、 株式会社キソパワーツールの 28510型ミニルータです。

ミニルータ

このミニルータには、様々な種類のビット(先端工具)を取り付けることができます。 色々と試した結果、もっとも銅箔を削るのに適したビットは、 サンフレックス株式会社が 販売している0.8mm径の「精密ミニヤスリ」でした。

精密ミニヤスリ・ビット

このビットを使って、パターンに沿って銅箔を削っていくと基盤ができあがります。

完成した基盤

このあと、基板表面を磨いた上でフラックスを塗っておくと この後の組み立てが楽になります。

超厚膜ハイブリッド・チップを組み立てる

基盤ができたので、基板の上に部品を配置して、 超厚膜ハイブリッド・チップを組み立てます。

最初は、端子の取り付けです。 端子には、0.6mmのスズメッキ線を使用しました。 基板の表面にスズメッキ線を半田付けしていきます。

端子を取り付ける

次は、MOSFETを半田付けします。 今回取り付けたのは、 オン・セミコンダクターの NTR4501NT1GというNチャネルMOSFETです。 VGSのしきい値電圧が、最大でも1.2Vと低電圧なのが魅力です。

MOSFETを取り付ける

あとは、端子の長さを切りそろえておしまいです。

超厚膜ハイブリッド・チップを使ってみる

できあがった「超厚膜ハイブリッド・チップ」を早速使ってみましょう。 サンプルアプリケーションは、マイコン制御のDC/DCコンバータです。

DC/DCコンバータに使ってみる

使い方は、いたって簡単。 端子の配置をTO-220型と互換性のある順番にしたので、 MOSFETを差し替えるだけで、実験を行うことができます。

超厚膜ハイブリッド・チップを使うと、 TO-220型のMOSFETを使った場合に比べて、 DC/DCコンバータの性能が良くなりました。 これは、VGSのしきい電圧が低いのに加え、 ゲートでの入力容量が小さいという要因によると思われます。

端子の取り出し方を工夫する

先に紹介した方法で超厚膜ハイブリッド・チップを作ると、 MOSFETを半田付けした際に端子部分の半田まで融けて、 せっかく苦労して取り付けた端子がとれてしまいます。 また、ソケットを使わずに超厚膜ハイブリッド・チップを直接半田付けする 場合にも半田が融けてしまう心配が残ります。

そこで半田ごての熱を加えても端子が取れないように、 0.8mmの穴を開けて、そこにスズメッキ線を通してカシメました。

穴あき基盤に端子を取り付ける

前出のミニルーターに0.8mmのドリルを取り付けて穴あけをしました。 半田付けをして、出来上がりです。

穴あき基盤に部品をを取り付ける

この方法の方が、端子がしっかりと固定されるので安心ですが、 小さい穴あけをする工程が増えてしまいますので、 細いドリルを扱いなれていない方には、おすすめできません。

いかがだったでしょうか。 この程度の基盤であれば、 エッチングなどしなくても銅箔を直接削ることによって 基盤を作成することができます。 ただ、もっと部品点数の多い基盤が欲しくなった場合には、 エッチングによって基板を作成したほうが良いでしょう。

参考サイト

株式会社キソパワーツール
ミニルーターの製造元です。 ブランド名は、PROXXONです。
サンフレックス株式会社
精密ミニヤスリの製造元です。
オン・セミコンダクター
MOSFETの製造元です。
2007-08-27 初版発行。

Updated: $Date: 2007/08/31 15:54:41 $

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