この号には、ヘッドコントローラー・ボードが付属していました。 本技術解説では、このヘッドコントローラ・ボードについて考察を行います。
この基板には、さまざまな部品が使用されています。 まずは、使用されている部品の素性を調べることから始めました。
マイコンは、 Freescale Semiconductorの MC68HC908AP8というチップが使用されています。 このチップには、 Freescale社のロゴと型番がマーキングされているので、 間違いようがありません。
データシートなどの情報は、以下の場所で入手できます。
14ピンと8ピンのSOICパッケージのICは、アナログICです。 いずれもON Semiconductorの 製品が使用されていました。
品番 | 品名 |
---|---|
LM324 | 単一電源4回路入りOPアンプ |
LM358 | 単一電源2回路入りOPアンプ |
LM339 | 単一電源4回路入りコンパレータ |
データシートなどの情報は、以下の場所で入手できます。
これらの部品は、 同一型番、同一マーキングのセカンドソース品と呼ばれる 製品が複数のメーカから販売されています。
この基板に使用されているトランジスタとダイオードには、 小さな表面実装部品が使用されています。 そのため、部品番号が略号でしか書いてありません。
この記号を手がかりに部品を探し当てなくてはなりません。 google検索などを駆使した結果、それぞれの部品の品番が判明しました。
マーキング | 品番 | 品名 | メーカ(推定) |
---|---|---|---|
FD | BCV26 | PNPダーリントントランジスタ | PHILPS |
FF | BCV27 | NPNダーリントントランジスタ | PHILPS |
1B | BC846B | NPN汎用トランジスタ | PHILPS |
A6 | BAS16 (MMBD2838) | 高速ダイオード | PHILPS |
これらの部品も 複数メーカからセカンドソース品が販売されています。 その中からPHILIPSと推定したのは、以下の理由によります。
また、セカンドソース品は、 ON Semiconductorおよび Fairchild Semiconductorに ありました。
この基板には、かなりの数の抵抗とコンデンサが表面実装されています。 抵抗は、マーキングによってその値が認識できるのですが、 コンデンサは、マーキングが無いため、 取り外して容量を測る他に値を知る方法がありません。 この解説は非破壊検査を減速としていますので、 これでは、値を知ることができません。
そこで、以下の解説では、 抵抗については値を明記していますが、 コンデンサの値は全てつけていません。 あらかじめご了承ください。
この解説は、基板を目視およびハンディ・テスタにより調べた結果を もとにしています。 そのため、部品の番号は、私が勝手につけた番号であり、 回路製作者により付けられた番号とは異なっています。
頭部を動かすために、 上下運動をさせるTiltモータと左右運動をさせるPanモータの 二つのモータが入っています。 頭部のモータを駆動するのは、ヘッドコントローラ・ボードのこの部分です。 下のマイコンから上のコネクタに向かって信号が流れています。
それぞれのモータは、 マイコンから出力される二本のデジタル信号によって制御されますので、 マイコンの端子のうち4本が使用されます。 基板をもとにしてTiltモータの駆動回路を書き起こしました。
同様にPanモータの回路図も書き起こしました。 回路自体は全く同じでした。
マイコンに接続された二本の制御信号、 PTD4/PTD5またはPTD6/PTD7によって、 モータの正転、逆転、停止を行うことが出来ます。
PTD4 | PTD5 | 動作 |
---|---|---|
LOW | LOW | 停止 |
HIGH | LOW | 正転 |
LOW | HIGH | 逆転 |
HIGH | HIGH | 禁止(トランジスタが破壊します) |
マイコンの電源には、乾電池3本で供給される公称4.5VのVDD電源が使用され、 二本の制御信号も4.5Vのデジタル信号として供給されます。 ところが、モータを動作させるための電源には、 乾電池5本で供給される公称7.5VのVPWR電源が使用されます。 このモータ駆動回路は、信号レベルの変換も兼ねています。
週刊マイロボット6号の技術解説でも 調べたように頭部には全部で20個のLEDが搭載されていました。 試験用コントローラ・ボードでは、 20個のLEDを四つのトランジスタで駆動していましたが、 このヘッドコントローラ・ボードには6個のトランジスタが搭載されて、 両目のLEDの駆動を行っています。
写真の右側にある比較的大きめの黒い部品がトランジスタです。 基板をもとにして回路を書き起こしたところ、 これらのトランジスタは目のLEDしか駆動していないことがわかりました。
では、耳にある白色LEDを駆動しているのは、どこかと基板を調べたところ、 以下のような回路になっていることがわかりました。
つまり、マイコンの出力端子がそのまま電流を供給しているらしいのです。 このLEDは、かなり電流を流すと推定しているのですが、 果たしてマイコンが直接駆動することに無理が無いのかが疑問です。
マイコンは、クロックを発生させて、そのクロックにしたがって仕事をします。 クロックを発生させるためには、色々な方法がありますが、 このヘッドコントローラ・ボードでは、 水晶振動子によって32.768kHzのクロックを発生させ、 さらにマイコン内部のPLLで最大32MHzのクロックを生成し マイコンのクロックとして使用しています。
これらの機能のうち、マイコンの内部から見ることができる部品は、 32.768kHzの水晶発振回路部分と PLLで使用されるフィルタの部分だけです。
基板には、以下のような回路がありました。
極めて、普通の水晶発振回路とPLLフィルタです。
モータと同様に 上下運動を検出するTiltエンコーダと 左右運動を検出するPanエンコーダが搭載され、 それぞれの信号がヘッドコントローラ・ボードに接続されます。
この部分の回路は、以下のようになっていました。
エンコーダは、発光素子と受光素子から構成されています。
このうち、発光素子は、 470オームの抵抗を介してVDDにそのまま接続されています。 つまり、電源スイッチを入れているだけで発光素子には電流が流れているのです。
週刊マイロボット6号に付属していた基板では、 発光素子はマイコンらしき部分に接続されていました。 このため、必要の無いときには電流が流れないように構成されていたはずです。 どうして、この基板では流しっぱなしになっているのか理解に苦しみます。
一方、受光素子側は10kオームのプルアップ抵抗の先に RCによるフィルタを通してマイコンの端子に接続されています。
マイク入力は、二つの部分で構成されています。 ここでは、前半をマイクアンプ、後半をピーク検出と呼びます。
また、この基板には、右、左、後の三つのマイクが接続されますが、 それぞれ同じ回路構成になっていたため、 左側のマイクについてのみ回路図を示します。
回路図の下半分は、仮想グランドを作るためのOPアンプで、 三つのマイクアンプとピーク検出で共通に使用されます。
マイクアンプ本体は、2段のアンプでできています。 1段目のアンプは、高インピーダンスのマイク入力を 低インピーダンスの信号にするためのアンプです。 2段目のアンプは、信号の増幅をするためのアンプで、 利得は60dBもあります。
一方、ピーク検出部は、以下のようになっています。
ダイオードで音声信号を検出し、 OPアンプで増幅し、さらにコンパレータでデジタル信号としています。
もし、マイクアンプからの入力が無ければ、 コンパレータU5Dの入力は、VMとVCになるため、 PTD0は、"H"の状態で安定します。 この時にマイクアンプから交流信号が入ってくると、 交流信号はダイオードで半波整流されてコンデンサC71を充電します。 このC71の電圧の変化はU4Bで18倍に増幅され、 コンパレータ出力を反転させます。
C71に充電された電荷は、 しばらく音声信号が入ってこないとR71によって放電され、 もとの状態に復帰します。
左・右・後のマイクで使用されている部品の対応は、 以下のようになっています。
部品 | 左マイク | 右マイク | 後マイク |
---|---|---|---|
抵抗 1kΩ | R12 | R23 | R14 |
コンデンサ | C11 | C12 | C13 |
OPアンプ | U2B | U2A | U2D |
抵抗 1kΩ | R21 | R13 | R24 |
抵抗 1kΩ | R11 | R22 | R25 |
コンデンサ | C21 | C31 | C32 |
OPアンプ | U3B | U3A | U3D |
抵抗 1kΩ | R31 | R43 | R44 |
抵抗 1MΩ | R41 | R72 | R51 |
ダイオード | D2 | D1 | D3 |
コンデンサ | C71 | C62 | C81 |
抵抗 220kΩ | R71 | R45 | R85 |
OPアンプ | U4B | U4A | U3C |
抵抗 1.2kΩ | R82 | R61 | R84 |
抵抗 22kΩ | R111 | R73 | R83 |
コンパレータ | U5D | U5A | U5B |
抵抗 39kΩ | R113 | R74 | R124 |
抵抗 15kΩ | R125 | R62 | R112 |
抵抗 10kΩ | R87 | R86 | R75 |
マイコン入力端子 | PTD0 | PTD1 | PTD2 |
ヘッドコントローラー・ボードには、 8ピンの端子が並んでいます。
これを回路図に書くと以下のようになります。
この端子は、 マイコンMC68HC908AP8のプログラムを書き込む際に使用する 端子であると思われます。 基板上に部品を並べてから、マイコンのプログラムを行う仕組みです。
ただ、この端子は、マイコン内部のFLASH-ROMを消去した状態での 書き換えしか考えていないようです。 もし、この端子からプログラムの書き換えを行うつもりであれば、 これらの端子に加えてOSC1端子を引き出さなくてはなりません。
2006-10-21 LED駆動回路まで執筆。
2006-10-25 モニタ端子まで執筆。