週刊マイロボット15号の技術解説

この号には、ヘッドコントローラー・ボードが付属していました。 本技術解説では、このヘッドコントローラ・ボードについて考察を行います。

ヘッドコントローラ・ボード写真

使用部品

この基板には、さまざまな部品が使用されています。 まずは、使用されている部品の素性を調べることから始めました。

マイコン

マイコンは、 Freescale Semiconductorの MC68HC908AP8というチップが使用されています。 このチップには、 Freescale社のロゴと型番がマーキングされているので、 間違いようがありません。

マイコン写真

データシートなどの情報は、以下の場所で入手できます。

68HC908AP8 Product Summary Page
http://www.freescale.com/webapp/sps/site/prod_summary.jsp?code=68HC908AP8

アナログIC

14ピンと8ピンのSOICパッケージのICは、アナログICです。 いずれもON Semiconductorの 製品が使用されていました。

アナログIC写真
品番品名
LM324単一電源4回路入りOPアンプ
LM358単一電源2回路入りOPアンプ
LM339単一電源4回路入りコンパレータ

データシートなどの情報は、以下の場所で入手できます。

LM324 - Single Supply Quad Operational Amplifier
http://www.onsemi.com/PowerSolutions/product.do?id=LM324
LM358 - Single Supply Dual Operational Amplifier
http://www.onsemi.com/PowerSolutions/product.do?id=LM358
LM339 - Single Supply Quad Comparators
http://www.onsemi.com/PowerSolutions/product.do?id=LM339

これらの部品は、 同一型番、同一マーキングのセカンドソース品と呼ばれる 製品が複数のメーカから販売されています。

トランジスタとダイオード

この基板に使用されているトランジスタとダイオードには、 小さな表面実装部品が使用されています。 そのため、部品番号が略号でしか書いてありません。

トランジスタ写真

この記号を手がかりに部品を探し当てなくてはなりません。 google検索などを駆使した結果、それぞれの部品の品番が判明しました。

マーキング品番 品名メーカ(推定)
FDBCV26PNPダーリントントランジスタ PHILPS
FFBCV27NPNダーリントントランジスタ PHILPS
1BBC846BNPN汎用トランジスタ PHILPS
A6BAS16 (MMBD2838)高速ダイオード PHILPS

これらの部品も 複数メーカからセカンドソース品が販売されています。 その中からPHILIPSと推定したのは、以下の理由によります。

  1. A6というマーキングのダイオードは、 PHILIPSが1素子であるのに対して他社製品では2素子入っている。 基板上の部品は、1素子しか入っていなかった。
  2. ID-01の発祥の地がヨーロッパである。
PHILIPSの半導体製品の情報は、 現在は、NXP Semiconductorsで 取り扱っています。

BCV26 - PNP Darlington transistors
http://www.nxp.com/pip/BCV26.html
BCV27 - NPN Darlington transistors
http://www.nxp.com/pip/BCV27.html
BC846B - NPN general-purpose transistors
http://www.nxp.com/pip/BC546A.html
BAS16 - High-speed diode
http://www.nxp.com/pip/BAS16.html

また、セカンドソース品は、 ON Semiconductorおよび Fairchild Semiconductorに ありました。

抵抗とコンデンサ

この基板には、かなりの数の抵抗とコンデンサが表面実装されています。 抵抗は、マーキングによってその値が認識できるのですが、 コンデンサは、マーキングが無いため、 取り外して容量を測る他に値を知る方法がありません。 この解説は非破壊検査を減速としていますので、 これでは、値を知ることができません。

そこで、以下の解説では、 抵抗については値を明記していますが、 コンデンサの値は全てつけていません。 あらかじめご了承ください。

部品番号について

この解説は、基板を目視およびハンディ・テスタにより調べた結果を もとにしています。 そのため、部品の番号は、私が勝手につけた番号であり、 回路製作者により付けられた番号とは異なっています。

モータ駆動回路

頭部を動かすために、 上下運動をさせるTiltモータと左右運動をさせるPanモータの 二つのモータが入っています。 頭部のモータを駆動するのは、ヘッドコントローラ・ボードのこの部分です。 下のマイコンから上のコネクタに向かって信号が流れています。

モータ駆動回路写真

それぞれのモータは、 マイコンから出力される二本のデジタル信号によって制御されますので、 マイコンの端子のうち4本が使用されます。 基板をもとにしてTiltモータの駆動回路を書き起こしました。

Tiltモータ駆動回路図
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同様にPanモータの回路図も書き起こしました。 回路自体は全く同じでした。

Panモータ駆動回路図

マイコンに接続された二本の制御信号、 PTD4/PTD5またはPTD6/PTD7によって、 モータの正転、逆転、停止を行うことが出来ます。

Tiltモータの動作
PTD4PTD5動作
LOWLOW停止
HIGHLOW正転
LOWHIGH逆転
HIGHHIGH禁止(トランジスタが破壊します)

マイコンの電源には、乾電池3本で供給される公称4.5VのVDD電源が使用され、 二本の制御信号も4.5Vのデジタル信号として供給されます。 ところが、モータを動作させるための電源には、 乾電池5本で供給される公称7.5VのVPWR電源が使用されます。 このモータ駆動回路は、信号レベルの変換も兼ねています。

LED駆動回路

週刊マイロボット6号の技術解説でも 調べたように頭部には全部で20個のLEDが搭載されていました。 試験用コントローラ・ボードでは、 20個のLEDを四つのトランジスタで駆動していましたが、 このヘッドコントローラ・ボードには6個のトランジスタが搭載されて、 両目のLEDの駆動を行っています。

LED駆動回路写真

写真の右側にある比較的大きめの黒い部品がトランジスタです。 基板をもとにして回路を書き起こしたところ、 これらのトランジスタは目のLEDしか駆動していないことがわかりました。

目のLED駆動回路図
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では、耳にある白色LEDを駆動しているのは、どこかと基板を調べたところ、 以下のような回路になっていることがわかりました。

耳のLED駆動回路図
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つまり、マイコンの出力端子がそのまま電流を供給しているらしいのです。 このLEDは、かなり電流を流すと推定しているのですが、 果たしてマイコンが直接駆動することに無理が無いのかが疑問です。

発振回路

マイコンは、クロックを発生させて、そのクロックにしたがって仕事をします。 クロックを発生させるためには、色々な方法がありますが、 このヘッドコントローラ・ボードでは、 水晶振動子によって32.768kHzのクロックを発生させ、 さらにマイコン内部のPLLで最大32MHzのクロックを生成し マイコンのクロックとして使用しています。

これらの機能のうち、マイコンの内部から見ることができる部品は、 32.768kHzの水晶発振回路部分と PLLで使用されるフィルタの部分だけです。

水晶発振回路写真

基板には、以下のような回路がありました。

水晶発振周辺の回路図
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極めて、普通の水晶発振回路とPLLフィルタです。

エンコーダ入力

モータと同様に 上下運動を検出するTiltエンコーダと 左右運動を検出するPanエンコーダが搭載され、 それぞれの信号がヘッドコントローラ・ボードに接続されます。

この部分の回路は、以下のようになっていました。

エンコーダ入力部の回路図
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エンコーダは、発光素子と受光素子から構成されています。

このうち、発光素子は、 470オームの抵抗を介してVDDにそのまま接続されています。 つまり、電源スイッチを入れているだけで発光素子には電流が流れているのです。

週刊マイロボット6号に付属していた基板では、 発光素子はマイコンらしき部分に接続されていました。 このため、必要の無いときには電流が流れないように構成されていたはずです。 どうして、この基板では流しっぱなしになっているのか理解に苦しみます。

一方、受光素子側は10kオームのプルアップ抵抗の先に RCによるフィルタを通してマイコンの端子に接続されています。

マイク入力

マイク入力は、二つの部分で構成されています。 ここでは、前半をマイクアンプ、後半をピーク検出と呼びます。

また、この基板には、右、左、後の三つのマイクが接続されますが、 それぞれ同じ回路構成になっていたため、 左側のマイクについてのみ回路図を示します。

マイクアンプ部の回路図
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回路図の下半分は、仮想グランドを作るためのOPアンプで、 三つのマイクアンプとピーク検出で共通に使用されます。

マイクアンプ本体は、2段のアンプでできています。 1段目のアンプは、高インピーダンスのマイク入力を 低インピーダンスの信号にするためのアンプです。 2段目のアンプは、信号の増幅をするためのアンプで、 利得は60dBもあります。

一方、ピーク検出部は、以下のようになっています。

ピーク検出部の回路図
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ダイオードで音声信号を検出し、 OPアンプで増幅し、さらにコンパレータでデジタル信号としています。

もし、マイクアンプからの入力が無ければ、 コンパレータU5Dの入力は、VMとVCになるため、 PTD0は、"H"の状態で安定します。 この時にマイクアンプから交流信号が入ってくると、 交流信号はダイオードで半波整流されてコンデンサC71を充電します。 このC71の電圧の変化はU4Bで18倍に増幅され、 コンパレータ出力を反転させます。

C71に充電された電荷は、 しばらく音声信号が入ってこないとR71によって放電され、 もとの状態に復帰します。

左・右・後のマイクで使用されている部品の対応は、 以下のようになっています。

部品左マイク右マイク後マイク
抵抗 1kΩR12R23R14
コンデンサC11C12C13
OPアンプU2BU2AU2D
抵抗 1kΩR21R13R24
抵抗 1kΩR11R22R25
コンデンサC21C31C32
OPアンプU3BU3AU3D
抵抗 1kΩR31R43R44
抵抗 1MΩR41R72R51
ダイオードD2D1D3
コンデンサC71C62C81
抵抗 220kΩR71R45R85
OPアンプU4BU4AU3C
抵抗 1.2kΩR82R61R84
抵抗 22kΩR111R73R83
コンパレータU5DU5AU5B
抵抗 39kΩR113R74R124
抵抗 15kΩR125R62R112
抵抗 10kΩR87R86R75
マイコン入力端子PTD0PTD1PTD2

モニタ端子

ヘッドコントローラー・ボードには、 8ピンの端子が並んでいます。

モニタ端子写真

これを回路図に書くと以下のようになります。

モニタ端子の回路図
SVG

この端子は、 マイコンMC68HC908AP8のプログラムを書き込む際に使用する 端子であると思われます。 基板上に部品を並べてから、マイコンのプログラムを行う仕組みです。

ただ、この端子は、マイコン内部のFLASH-ROMを消去した状態での 書き換えしか考えていないようです。 もし、この端子からプログラムの書き換えを行うつもりであれば、 これらの端子に加えてOSC1端子を引き出さなくてはなりません。

2006-10-21 LED駆動回路まで執筆。
2006-10-25 モニタ端子まで執筆。
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